ユカサントリーニの煩悩

Some Kleshas of Yuka Santorini

今アメリカで一番アツいおじいちゃん、デイヴィッド・バーンについて

Fontaines D.C.が三作目となる新アルバム、Stinky Fiaの発売発表(4/22予定)と、それに先立ちリードシングルであるJackie Down The LineのMVを公開しました。でも今日はFontaines D.C.の話ではないんです。ブロードウェイのショーで大成功を収め、それを記録したスパイク・リー監督による同名ドキュメンタリー映画アメリカン・ユートピア』で名前を轟かせている今一番アメリカでホットなおじいちゃんアーティスト、デイヴィッド・バーン氏についてです。

 

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なぜ今、デイヴィッド・バーン?

そもそもデイヴィッド・バーンって誰?って話ですが、洋楽が好きな人なら一度は聴いたことがあるはずの

 

♪サイコキラ〜 ケスクセ? ファファファファーファファファ ファファファーファベダー ランランランランランラナウェイ

猟奇殺人 なにそれ? ずっとずっとずっとずっと遠くに逃げた方がいいぞ

 

というコーラス部分が印象的なPsycho Killerが代表曲として有名なTalking Headsのフロントマンです。もともとサイコキラーだけ知っていたのですが、どんな人が歌っているのか興味を唆られるほどこの曲が好きではなく(不穏なベースラインとフランス語を混ぜた歌詞がとにかく不気味で気持ち悪かった)、トーキングヘッズがアメリカのバンドなのかイギリスのバンドなのかすら知りませんでした。ところが去年の11月ごろ、音楽の知識が半端ない音楽オタクの男性とデートし始め、私の音楽の趣味はイギリスに偏重してること、また、もっとアメリカのバンドを聴くべきであることを指摘され、彼の家に遊びに行った際にYoutubeに上がっているLife During Wartimeの映像を見せられました。このとき衝撃が走ったのです。初めて聴いた曲なのに、既視感のある映像。イギリスはマンチェスター出身の今をときめくインディーロックバンド、THE 1975のIt’s not living if it’s not with you という曲のMVやこのバンドのライブ編成が、この時見せられた古い映像の丸パクリだったからです。THE 1975は曲をパクりまくることで有名ですが(詳しくは5ちゃんねるを参照)、まさか衣装の雰囲気から大所帯、黒人女性ダンサー二人をステージ上に出すところまでパクりだったとは!ポリコレで有色人種をステージ上に上げて多様性万歳!みたいなことをしてるのかと思ったら、ただの"オマージュ"だったのです。トーキングヘッズ(以下ヘッズ)の方はダンサー兼コーラスのような感じですが。でもTHE 1975は好きなバンドなので悪口はこの辺にしておきましょう。私の周りには歌詞が稚拙とか、マッティがPoser過ぎるとかPosh C*ntだという理由で嫌いな人が多いですが、私は好きです。今年のサマソニも楽しみですが、あまりにもアンチが多いのでハルキストのような肩身の狭い思いをしています。THE1975の愚痴はさておき、単純な私はこのビデオに映る挙動不審な踊りをする男が意外とシュッとした二枚目高身長だったので、興味を持ちました。

 

見せられた映像(ライブ映画 Stop Making Senseより)

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”オマージュ”で有名なイギリスのバンドThe 1975による問題のMV

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マッティの名誉のために言うと彼はデイヴィッド・バーンが好きだとインタビューで公言しています。そりゃそうだろうな。

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そうです、アメリカン・ユートピアの大ブームは私がデイヴィッドバーン氏に興味を持ったきっかけと全く関係なかったのです。

 

彼の過去作を全部チェック

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彼に興味を持ち、まず大晦日新文芸坐で行われたStop Making Sense の強制立ち見上映会に参加しました。大晦日という家族団欒のための休日に、池袋のミニシアターに集合し、1985年のライブ映画を観る(しかも満席!)と言う行為の異質さはもはや宗教儀式に近いものを感じました。観賞後、信仰心を得たわたしは即Amazonで円盤を購入。音源のみならず、彼が本人役で出演した『きっとここが帰る場所』(2011年)と自身が監督したTrue Stories(1986年)も円盤を購入し鑑賞しました。『きっとここが帰る場所』の原題はThis must be the place、私が一番好きなヘッズの曲です。作中でデヴィッドバーン本人が登場し、イントロがストリングスになっているバージョンの同曲を披露します。冗長で面白くないけどどこかセラピューティックでアーティなヨーロッパ映画を英語で演じてるような作品で、私のようによっぽどデイヴィッド・バーンを見たい狂人でもない限りあまりオススメできない作品です。

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True Storiesのレビューはフィルマークスに書いたのでそちらをご覧ください。

https://filmarks.com/movies/28164/reviews/127603125

現在は趣味のサイクリングを通して世界中の都市について感じたことを記録したエッセイであるBicycle Dairies(洋書)を読んでいます。まだ3分の1しか読んでませんが、戦後の東西ベルリンの歴史についてや、ウィーン・アクショニズムについて、かつてインテリバンドと評された彼の知性を感じることができて面白いです。

 

昔のインタビュー集

1970年代後期のロンドンでは、労働者階級が社会の不満を3コードに乗せて叫ぶ単純な音楽がパンクロックとされていましたが、当時ニューヨークのパンクシーンの中心にいたバンドは、かつて存在したCBGBというライブハウスでプレイしていた人たちのことらしく、音楽の脱構築がメインでロンドンに音楽面で影響を与えることはあっても過激な政治的な主張などはなかったみたいです。トーキングヘッズも難解な歌詞で芸術性が強く、分かりやすい社会風刺的な詞などはあまりありません。

美大出身で容姿端麗、ステージ上での変なダンスやパフォーマンスは全て計算の上で行うチャラいフロントマンだという印象を受けたのですが、当時のインタビューを見るとあまり笑わず、静かでソフト。このインタビューではベーシストのティナちゃんに I guess he’s organically shy (彼って有機的にシャイなんだと思う)と言われている始末。ちなみにティナちゃん、インタビュアーに目標を聞かれ、「壮大な目標だと思うけど音楽史に名を刻みたい」とも答えてます。実現しましたね。痺れます。

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このインタビューでは、生前イアンカーティスが浮き名を流したベルギー人音楽ジャーナリストのアニーク・オノレさんに質問攻めに遭っています。どこかアメリカ以外に住んでみたいところはある?と聞かれ、分かんないけど東京かな?とのこと。嬉しくなりました。

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映画 Stop Making Sense より。映画について質問する複数の老若男女インタビュアーの役を一人で演じ、自ら回答しているシュールな宣伝映像。

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このセルフインタビュー時に黒人に扮するために黒塗り(英語でBlack Faceという)をしていることを最近になって糾弾され、2020年にTwitter上で謝罪しています。個人的には数年前に日本の芸人が年末のくだらない特番でブラックフェイスをして炎上した時のメイクやいじりの方がよっぽど悪質だと思うのですが、アメリカには黒人を馬鹿にする伝統芸能としてブラックフェイスをやっていた恐ろしい歴史があるので、やはり黒人の方からしたらこの映像は気分が良いものではないし、これが黒人役ではなく、つり目出っ歯メガネのアジア人役だったら多分我々2022年の日本人はドン引きしていたと思います。ただこの時代は今ほど倫理観が成熟してないし、多くの日本人もブラックフェイスがいけないということをダ◯ンタ◯ンが炎上するまで知らなかったので、傷つけてしまったことを反省しつつ差別の歴史があったことを学び、より良い未来に向けて倫理観をアップデートすることが大切なのではないかと思います。

 

自称アスペルガーについて

このインタビューを聴いたところ、自身が自称アスペルガーであること、またそれをスーパーパワーであると称しており、重度ADHDとして精神科に行き始めた私は同じく発達障害者として興味を持ちました。確かに若い頃のインタビューを見ると、ハニカミ屋でシャイであまりコミュニケーションがうまくなさそうな印象を受けます。

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このインタビューによると、旧バンドメイトのティナちゃんが以前「彼はアスペだと思う」と発言したことがあったそうです。バーン氏はその時何のことかよくわからなかったそうですが、確かに若い頃に人との付き合いが苦手だと感じた時期があったそうです。また、あるライターに「彼は自閉症を面白くしている」と評されたことも。

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インタビュアー:なぜ軽度アスペルガーなのにパフォーマーとしてのキャリアを選択したのですか?アスペの人にしては少し不自然なチョイスでは。

バーン氏:少なくとも自分には理解できます。会話とか通常の社会的な枠組みでの自己表現が苦手だったら他のやり方を探すでしょ?ステージに上がって、演壇に立ち、思いのうちをブチまける。高校の時、生徒会に立候補してぶっ飛んだスピーチをするのが大好きだったんだ。誰からも投票されなかったけど。注目を浴びても匿名みたいなもので、一対一では怖くて言えないような事も一対多というフォーマットだと言えるようになるんだ

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お年を召すにつれ、かなり表情も朗らかになり、笑顔も増えて明るい感じになったように感じます。

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最新のWIREDのインタビューでは、昔ニューオリンズのジャズフェスティバルに出演した際に、ノーマン・ベイツに間違えられたことを笑いながら話しています。

 

以上、最近ハマっているデイヴィッド・バーン氏についてでした。ちなみに冒頭で述べたヘッズを教えてくれたマッチングアプリの男とは2ヶ月間デートをした結果、アメリカン・ユートピアを私のU-NEXTで一緒に見るデートを最後に向こうからの連絡頻度が減ったことに情緒不安定な私が腹を立て、彼のインスタをブロックして終わりました。自分でもびっくりするぐらいの一方通行っぷりに笑っちゃいますが、ブスだろうがハゲだろうがデブだろうがワキガだろうが気にならないぐらい素敵な人に出会えますように。thank u, next. めでたし、めでたし。